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Posted by Miki OKUBO on  | 

緑色のパンプスと短い髪のこども

アスピリンが効かない。
それどころか、さきほどよりも首の後ろや頭の内側がピリピリするではないか。
世界は驚きに満ちている。
というか、メトロに乗ると驚く。最近改めてメトロの話しばっかりしている。
4年近く乗ってても、なんにせよスペクタクル的なもので溢れている。と思う。

大学で自分の講義が終わった後、一度出発して忘れ物をしたことに気がついてまた引き返したら、それでも10駅くらい過ぎてしまっていたので折り返したことで1時間くらいかかった。
独り座席にすわったら、逆サイドに叫ぶように会話する大きなおじさんがふたり。彼らの言葉はわからなかったけれど、それはたしかに言葉であり、しかし叫んでいた。メトロの轟音は今日いつにも増して頭中に鳴り響いたが、おじさんたちはそれを突き抜けて更なる空気振動を生み出していた。なんとハッピーなことに、そのうちの一人が出発して間もない駅で降車した。すばらしい。

そう思った矢先、ベビーカーと7歳くらいの子どもをつれた女が入り口の近くに入ってくるのが見えた。彼女は、も、やっぱり叫んでいた。こんどは、電話を片手に叫んでいて、やっぱり言葉は分からなかった。それは暴力的なのではなくて、それもひとつ伝達手段としての言葉の本質的な手段であると感じさせるような何かがあり、それは犬の遠吠えとか鳥の呼応する鳴き声とか、遠くにいる個体に呼びかける呼び声とか、そんなもののあり方に似ていた。

小さな少女は少年のようにも見え、短い髪、大きな目、緑色の華奢でヌーディーなパンプスを履いていて、その足もとが妙に女臭かった。そうでなかったら、人々はこのこどもを少年と見間違うことができたであろうに。このこどももまた、母と思しき人の電話がおわるとそれにひけをとらないヴォリュームで叫び始めた。大きなバックから、次々と新しく購入したらしい洋服をひきだし、フェイクの革パンツを豪快にひっぱりだすと、しばらく上に下に振り回しながら見つめると、彼女は決心してレンギスのような自分のズボンの上から履き始めた。するすると両足を通すと、たちあがって、お腹までしっかりズボンをつりあげた。値札をびりっとやぶりとって、誇らしげに、車内の乗客のほうをちらりと振り向いた。短い髪はぼさぼさで、目が大きく異様に光っている。そして足もとはやはり緑のパンプスのせいで女らしい。来ているカットソーも新しいフェイク革パンも、どこかのマルシェのワゴンの中から彼女の保護者の予算に合わせて選び取られたものだろう、それは彼女の小さな身体にぴったりしていたが、ギシギシと音が聞こえてきそうなほど硬そうに見えた。

隣にすわる母と思しき女はちいさな頭に季節外れでナンセンスなエメラルドグリーンの帽子をかぶせた。水色のキラキラするリボンもついている。こどもは、全体的にナンセンスなカウボーイみたいになった。こどもはとても満足していて、帽子をかぶされるままにおとなしく、これもまた妙に大人臭いデザインの安っぽいバッグの中身を詮索していた。

わたしはやっぱり緑のパンプスの裸足の足が気になってぼーっと車両の床ばかりを見ていた。どのくらいそうしていたのかわからない。

何駅かすぎて、彼らが降りる時、私の意識がもどってきた。ふと視線をあげると頭にはそのおもちゃみたいな帽子はもうのってなくて、これもまた、かぶりごこちがよくなかったのかもしれないと私は思った。こどもはすっと立ち上がり、革パンツをもういちどつりあげてほこらしそうに、メトロを降りていった。


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